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ユニクロvs下請け企業セルフレジ特許訴訟のユニクロ反撃(無効審判とは?)
こんにちは、企業内弁理士のタクパパです。
以前に↓のような記事で、このアスタリスクという大阪の中小企業が対ファーストリテイリング(ユニクロ)に特許権侵害行為差止の仮処分命令申立の訴訟を提起することによる知財戦略を説明しました。
さらに↓の記事でアスタリスクの対象特許(特許6469758号)の攻防が激しいということをアスタリスクの権利化(特許化)に絞ってお話しました。
アスタリスクは頑張って、特許6469758号の権利化(特許化)に成功するわけですが、その後、ユニクロの反撃(無効審判)を受けることになります。
今日は、このユニクロの反撃(無効審判、無効2019-800041)について説明しようと思います。
なお、特許の内容や審査経過については特許6469758号(PDFはこちら)からご確認頂くことが可能です。
無効審判とは?(ユニクロのアスタリスク特許(セルフレジ)への反撃)
上記の記事でも無効審判について簡単に説明しましたが、ここではアスタリスクのセルフレジ特許(特許6469758号)を使って、もう少し詳しく説明しようと思います。
無効審判って一体なんなの?ということですが、その名の通り、特許を無効にするために特許庁に請求する手続のことです。
無効審判ってどんな手続なの?
アスタリスクのセルフレジ特許(特許6469758号)は特許庁の審査を経て特許になっているわけですが、特許になるためには、いくつかの条件(特許要件といいます)があります。
特許は独占排他権といって、要するに特許権者(※この場合、アスタリスク)だけが自由にその特許発明を実施でき、しかもアスタリスク以外の第三者(※この場合、ユニクロ)が実施することに対し、「実施をやめろ!」と請求できる強力な権利です。
なので、当たり前ですが、どんな発明であっても特許になってしまったら、みんなが困ってしまうわけですね。
そのため、特許になるためのいくつかの条件(特許要件)が定められていて、特許庁の審査官は特許出願に対して、この特許要件を満たしているかどうかを審査することになります。
それで特許庁の審査官の審査の結果、この特許要件を満たしているから特許という特別な権利をその特許出願人(アスタリスク)に与えたわけです。
ただ特許庁の審査官の審査は完璧ということはありえないので、間違いというか、見落としだだってあるわけです。
こういった審査官の間違い(見落とし)によって、本来は特許になるはずではなかった、つまり特許要件を満たしていない特許出願が特許になってしまうと、これにより被害を被る企業(この場合、ユニクロ)があり得ることになります。
ちなみにこの特許要件を満たしていない特許出願が特許になってしまった場合に、その特許のことを「無効理由を有する特許」といいます。
この「無効理由を有する特許」について、「特許により被害を被るおそれのある企業(ユニクロ)」は、特許庁に対し、
と請求できるのが無効審判というわけですね。
無効審判はほとんど裁判(請求人:ユニクロ、被請求人:特許権者アスタリスク)
この無効審判ですが、利害の対立する当事者を「原告(訴える側)」と「被告(訴えられる側)」として、双方の主張をたたかわせるという裁判の構造とほとんど同じです。
ただ無効審判では、「原告」と「被告」とはいわず、「請求人」、「被請求人」といいます。
それで「請求人」はユニクロ(ファーストリテイリング)で、「被請求人」は特許権者であるアスタリスクですね。
それで無効審判の中で互いに主張を言い合うことになります。
当然、「請求人」のユニクロ(ファーストリテイリング)は「アスタリスクの特許は無効理由を有する!」と主張し、
「被請求人」の特許権者アスタリスクで「私の特許は無効理由ではない!」と主張することになるわけですね。
裁判ではないので、裁判官はいませんが、特許庁の審判官が裁判官の代わりにこの無効審判の審理をすることになります。
最終的に、この審判官が「特許は無効だ!」という審決をするか、「特許は無効ではない!(有効だ!)」という審決をするかの基本的にはどちらかですね。
この無効理由って一体なんなのか、という点については具体的にユニクロ(ファーストリテイリング)とアスタリスクとの無効審判(無効2019-800041)を例にして説明します。
ユニクロが主張するアスタリスク特許の無効理由(無効2019-800041)
アスタリスク特許(特許6469758号)は「特許請求の範囲」が請求項1~4まであり、無効審判は各請求項に対して個別に請求することができます。
全部は説明しませんが、ユニクロはアスタリスク特許の請求項1、2に対して以下のような無効理由を主張しています。
・請求項1に対して新規性違反
・請求項2に対して進歩性違反
新規性や進歩性はそれぞれ上記した特許要件の一つです。
なのでユニクロは、アスタリスク特許の請求項1はこの新規性を有していないため、新規性違反という無効理由があり、また請求項2はこの進歩性を有していないため、進歩性違反という無効理由があると主張しているわけです。
以下では、この新規性、進歩性とは一体なんなのか、簡単に説明したいと思います。
ユニクロ主張のアスタリスク特許に対する無効理由の新規性違反とは?
ユニクロは、アスタリスク特許(特許6469758号)の「特許請求の範囲」の「請求項1」が「公知文献1」に開示されており、新規性がない(つまり新規性違反の無効理由を有する)と主張しています。
「新規性」というくらいなので、発明が新しくないといけないのは分かると思いますが、では何が新しい必要があるのでしょうか?
それはずばり「特許請求の範囲」の「請求項1」に記載の発明が新しいことが必要になります。
なお、「特許請求の範囲」という書類については↓の記事で説明しましたので、必要な方は見てみてください。
では「請求項1」に記載の発明が何に対して新しいことが必要なのでしょうか?
それは「特許出願日よりも前に世の中に知られている技術」に対して、「請求項1」に記載の発明が新しいことが必要になります。
アスタリスク特許(特許6469758号)の特許出願日は2017/5/9なので、これよりも前に公開されているたとえば特許文献に「請求項1」に記載の内容が開示されていれば、新規性違反ということになってしまうわけです。
それでユニクロは、アスタリスク特許(特許6469758号)の「請求項1」が「公知文献1」に開示されており、新規性がない(つまり新規性違反の無効理由を有する)と主張しています。
ちなみに↓がアスタリスク特許(特許6469758号)の「請求項1」で(A)~(D)は見やすくするために僕が付したものです。
(A)物品に付されたRFタグから情報を読み取る据置式の読取装置であって、
(B)前記RFタグと交信するための電波を放射するアンテナと、
(C)前記アンテナを収容し、前記物品を囲み、該物品よりも広い開口が上向きに形成されたシールド部と、を備え、
(D)前記シールド部が上向きに開口した状態で、前記RFタグから情報を読み取ることを特徴とする読取装置。
(A)~(D)のことを発明の構成要件と呼んだりしますが、ユニクロは「請求項1の構成要件(A)~(D)の全てが「公知文献1」に開示されているため請求項1は新規性がない」と主張しているのですね。
なお、この「公知文献1」の具体的な特許番号などは分かりませんでしたが、おそらくユニクロがアスタリスク特許(特許6469758号)が成立したことを知ってから、必死に探したものでしょう。
無効審判の経過を見ますと、どうもこの「公知文献1」は日本語の文献ではなく、海外の文献のようですね。
これは推測ですが、ユニクロはアスタリスク特許(特許6469758号)の無効理由を見つけるために必死に公知文献を探したものの日本の特許文献などの公知文献で良いものは見つからなかったのでしょうね。
それで、どこの国のものかは分かりませんが、海外の公知文献まで調査して、ようやく請求項1の新規性違反を主張できるような公知文献を発見したということではないかなと推測します。
ユニクロ主張のアスタリスク特許に対する無効理由の進歩性違反とは?
ユニクロは、アスタリスク特許(特許6469758号)の「特許請求の範囲」の「請求項2」が「公知文献1」と「公知文献2」との組み合わせにより容易に考えられる発明であり、進歩性がない(つまり進歩性違反の無効理由を有する)と主張しています。
「進歩性」なのですが、「進歩性」を細かく説明するときりがないので、簡単にしますが、要するに、「公知文献から簡単に考えられる発明には特許はあげないよ」ということです。
言い方を変えると、「その発明を公知文献から考えるのが難しい」ということが言えれば、その発明は「進歩性を有する」ということになります。
ちなみに↓がアスタリスク特許(特許6469758号)の「請求項2」でこの「請求項2」は「請求項1」の従属項なので、「請求項2」の発明の構成要件は(A)~(E)ということですね。
【請求項2】
(E)前記アンテナよりも前記開口側に配されて、前記物品が載置される載置部を備えた請求項1に記載の読取装置。
ちなみに上記したようにユニクロは、アスタリスク特許(特許6469758号)の「請求項1(※構成要件(A)~(D))」が「公知文献1」に開示されていると主張しているので、「公知文献1」には上記の「請求項2」の構成要件(E)は開示されていなかったということですね。
これ、意味わかりますかね。
もし「公知文献1」に「請求項2」の構成要件(E)が開示されていれば、「請求項2」に対して、進歩性違反の無効理由を主張するのではなく、新規性違反の無効理由を主張するためですね。
本記事のまとめ
以上、ユニクロvs下請け企業セルフレジ特許訴訟を例にして、無効審判がどのような手続なのか、また実際にユニクロが主張しているアスタリスク特許に対する無効理由(新規性違反、進歩性違反)について説明しました。
上記にリンクを貼ったJ-PlatPatからは公知文献の中身までは分からなかったのが残念ですが、ユニクロ、アスタリスクとも必死に戦っているのがうかがえて面白いし、僕も勉強になりましたね。
ちょうど下町ロケットでもギアゴーストがケーマシナリーから特許権侵害を主張された際に、佃(阿部寛)が佃製作所のメンバーにケーマシナリーの特許を無効にするための資料を探し出すよう命じ、みんなで不眠不休で資料の調査をするシーンがありましたよね。
あれはドラマなので、あそこまでではないですが、無効審判のような係争になると、証拠(公知文献)を見つけるまで寝られなくなったりしますよ笑
というわけで少しでも無効審判について、こんなものだと理解頂けると幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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