この記事のもくじ
初心者向け特許出願方法(書類②明細書(ロバート秋山さん特許を例に説明))
こんにちは。
企業内弁理士のタクパパです。
前回は知財部の仕事内容の一つである特許出願に必要な以下の5つの書類のうちの①願書について説明しました。
①願書(がんしょ)
②明細書(めいさいしょ)
③特許請求の範囲(とっきょせいきゅうのはんい)
④図面(ずめん)
⑤要約書(ようやくしょ)
今回も初心者向け特許出願方法の基礎知識として、ロバート秋山さんの「梅宮辰夫ものまねTシャツ」の特許出願(特願2016-172346)を使わせていただいて②明細書について説明します。
この特願2016-172346の明細書は↓のとおりです。
秋山さん特許明細書なお、↑の明細書は↓の特許庁のJ-PlatpatからPDFとして出力したもので、誰でもご確認頂くことが可能です。
特許出願の明細書で重要な項目としては↓の6つがあります。
「え?これだけ?」
と思われるかもしれませんが、本当にこれだけです。
(1)【発明の名称】
(2)【技術分野】
(3)【背景技術】
(4)【先行技術文献】
(5)【発明の概要】
(6)【発明を実施するための形態】
別の書類である「③特許請求の範囲」→「②明細書」の順に説明した方が理解しやすいかもしれませんが、ここでは「②明細書」から上記6項目について一つずつ説明していきますね。
ロバート秋山さんの特許出願の明細書の(1)【発明の名称】
ちなみに明細書に限りませんが、特許庁に提出する書類のほとんどは各項目に【】(すみかっこ)を使うことが多いです。
ロバート秋山さんの特許出願(特願2016-172346)でも上記した項目について【】が使われていますよね?
「(1)【発明の名称】」については多くの説明は不要かと思いますが、この特許出願(特願2016-172346)では「小道具」としています。
要は名称なので、「Tシャツ」でも良いとは思いますが、仮に【発明の名称】を「Tシャツ」とすると、「トレーナー」はロバート秋山さんの特許の範囲(※特許が成立した場合)に含まれなくなってしまいます。
だって、「トレーナー」は「Tシャツ」ではないですよね?
なので、「小道具」と広い名称にすることで、「Tシャツ」だろうと「トレーナー」だろうとその特許に含まれるようにしているわけですね。
ロバート秋山さんの特許出願の明細書の(2)【技術分野】
ロバート秋山さんの特許出願(特願2016-172346)では「(2)【技術分野】」に「本発明は、瞬時に顔を別人の顔に変化させて観衆を笑わせ或いは驚かせる小道具に関する。」と書かれています。
なので、本発明がどの技術分野に属するのか、簡単に書けばいいだけの話であって、一番シンプルに書けば「本発明は、小道具に関する。」となります。
これだけでもいいといえばいいのですが、それだけではよくわからないので、どのような「小道具」なのか、簡単に説明(瞬時に顔を別人の顔に変化させて観衆を笑わせ或いは驚かせる)を加えているというわけです。
ロバート秋山さんの特許出願の明細書の(3)【背景技術】(4)【先行技術文献】
「(3)【背景技術】」と「(4)【先行技術文献】」は互いに関係するところなので一緒に説明します。
「(4)【先行技術文献】」というのが特許出願をする前に分かっている文献のことで、特許文献でも論文でもなんでもいいのですが、特許出願前に世の中に知られている文献のことです。
ロバート秋山さんの特許出願(特願2016-172346)では「(4)【先行技術文献】」として、↓の【特許文献1】特開2005-139593号公報という文献を挙げていますね。
この特開2005-139593号公報の内容については↑のリンクからご確認いただければと思いますが、「お面の製造方法」に関する内容のようです。
この「(3)【先行技術文献】」の内容というのが「(3)【背景技術】」になるので、「(3)【背景技術】」では特開2005-139593号公報(お面の製造方法)について説明しているわけです。
「(3)【背景技術】」と「(4)【先行技術文献】」については、これだけですね。
ロバート秋山さんの特許出願の明細書の(5)【発明の概要】
「(5)【発明の概要】」はその通り、発明の概要を説明するための項目です。
では発明の概要はどのように説明できるでしょうか。
それがずばり、↓の
【発明が解決しようとする課題】
【課題を解決するための手段】
【発明の効果】
という3つで説明できます。
【発明が解決しようとする課題】
まず【発明が解決しようとする課題】というのは、上記した「(3)【背景技術】」の内容の問題点(課題)のことです。
「(3)【背景技術】」に何の問題点(課題)もなければ、別に発明なんて必要ないですよね?
要は発明というものは、「(3)【背景技術】」の内容の問題点(課題)を解決するものであり、この【発明が解決しようとする課題】では、発明がどのような課題(問題点)を解決しようとしているのか、記載するわけです。
ロバート秋山さんの特許出願の【発明が解決しようとする課題】では、「しかしながら、上記お面のような小道具を手にすることなく顔を変化させることができれば、観衆に更に意外性を感じさせて、より一層興趣を高めることができる。」と記載されていますね。
この書き方だとちょっと分かりにくいかもしれませんが、要は上記した「(3)【背景技術】」の特開2005-139593号公報(お面の製造方法)の場合、お面のような小道具を手にすることで顔を変化させるため、これを見ていた観衆からすると、ちょっと意外性にかける、というのが「(3)【背景技術】」の課題(問題点)になります。
観衆からすれば、「そりゃそうだろう」と予想がついてしまうということですね。
【課題を解決するための手段】
それで、この【発明が解決しようとする課題】を解決するのが、【課題を解決するための手段】に記載する内容になります。
なので、言い方は違いますが、【課題を解決するための手段】に記載する内容は発明の内容そのものということですね。
ちなみに次回に説明する特許出願に必要な書類の「③特許請求の範囲」にも発明の内容を記載します。
したがって、「③特許請求の範囲」に記載する内容と、【課題を解決するための手段】に記載する内容は全く同じということになります。
ロバート秋山さんの特許出願の【課題を解決するための手段】はここでは省略しますが、要はあの「梅宮辰夫ものまねTシャツ」の内容が記載されています。
【発明の効果】
最後に【発明の効果】ですが、これは発明によって何がどう改善されるのか、という内容になります。
上記したように発明というのは「(3)【背景技術】」の内容の問題点(課題)を解決するものなので、【発明の効果】というのは、問題点(課題)を解決できたということを記載すればOKです。
ロバート秋山さんの特許出願の【発明の効果】では「本発明によれば、自分の顔を瞬時に別人の顔に変えてみせるにおいて、観衆の興趣をより一層高めることができる。」と記載されています。
言い方を変えれば、上記した「(3)【背景技術】」の特開2005-139593号公報(お面の製造方法)では観衆からすると、意外性にかけていたのが、よりびっくりさせて楽しませることができるというのが、【発明の効果】と記載してもよいでしょう。
ロバート秋山さんの特許出願の明細書の(6)【発明を実施するための形態】
明細書の最後に記載するのが、この「(6)【発明を実施するための形態】」になります。
最後ですが、一番、内容を充実しないといけないところです。
とはいっても、この「(6)【発明を実施するための形態】」も結局は発明の内容を説明するための文章になります。
なので、「(6)【発明を実施するための形態】」では、上記した別の書類の「③特許請求の範囲」に記載する内容、あるいはこれと同じ内容の【課題を解決するための手段】に記載した内容について説明することになります。
別書類の「③特許請求の範囲」や上記の【課題を解決するための手段】と、「(6)【発明を実施するための形態】」との違いですが、「③特許請求の範囲」や上記の【課題を解決するための手段】では、図面のことは基本的に無視して、発明の内容を文章だけで記載しました。
しかし、図面がなく文章だけで発明の内容を書かれても分かりにくいですよね?
そのため、特許出願では、「④図面」の提出が義務付けられています。
ロバート秋山さんの特許出願の「④図面」は↓の通りです。
秋山さん特許図面そして、「(6)【発明を実施するための形態】」では、別書類の「③特許請求の範囲」や上記の【課題を解決するための手段】と違って、「④図面」に言及しながら、より詳細に発明の内容を説明することになります。
特許出願の「④図面」はちょっと変わっていて、図面の各構成(「そで」とか「えり」とか「ボタン」とかです)に名前を付さないで、符号を付す決まりになっています。
昔からこの決まりになってますが、はっきり言ってむちゃくちゃ見にくいですよね・・。
それはともかく、そんな見にくい図面の各符号についてちゃんと説明してあげないと、発明の内容が理解できないので、「(6)【発明を実施するための形態】」では「④図面」の符号が何を意味するのか、ちゃんと説明することも必要です。
そのうえで、別書類の「③特許請求の範囲」や上記の【課題を解決するための手段】で記載した内容についても、ちゃんと「④図面」の符号を用いながら、理解しやすいように解説してあげることが重要です。
いくら素晴らしい発明であっても、これを審査する審査官が発明の内容を理解できなければ特許になることはないので、とにかく分かりやすく、素人が読んでも理解できるように「(6)【発明を実施するための形態】」を記載してあげることが大事です。
たとえば「(6)【発明を実施するための形態】」の【0012】には
と記載されており、これは【課題を解決するための手段】に記載されている内容について「④図面」の符号を用いながら詳細に説明していることが分かりますね。
ちなみに上記で【発明の概要】は、【発明が解決しようとする課題】、【課題を解決するための手段】、【発明の効果】の順番で説明すると説明しました。
「(6)【発明を実施するための形態】」でも基本的な考えは同じなのですが、少なくとも【課題を解決するための手段】、【発明の効果】を記載するようにします。
それで「(6)【発明を実施するための形態】」の【0014】には
と記載されており、【発明の効果】が記載されていることが分かりますね。
「(6)【発明を実施するための形態】」については以上となります。
本記事のまとめ
以上、初心者向け特許出願方法の基礎知識として、「②明細書」で記載する↓の重要項目について説明してきました。
(1)【発明の名称】
(2)【技術分野】
(3)【背景技術】
(4)【先行技術文献】
(5)【発明の概要】
(6)【発明を実施するための形態】
「なんだ、これくらいなら自分にもできそうだ」
と特許を身近に感じていただけると嬉しいです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
コメント