ノーベル化学賞受賞吉野彰さん基本特許(リチウムイオン電池)を説明します

知財戦略
出典:THE NOBEL PRIZE
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ノーベル化学賞受賞吉野彰さん基本特許(リチウムイオン電池)を説明します

 こんにちは。

 企業内弁理士のタクパパです。

 先月、旭化成名誉フェロー吉野彰さんがノーベル化学賞を受賞されましたね。

 リチウムイオン電池の負極材料に石油コークスという炭素材料を用いることを発見し、リチウムイオン電池の実用化に大きく貢献されたということで素晴らしいと思います。

 民間企業の研究者からノーベル化学賞を受賞されたのは島津製作所の田中耕一さん以来、二人目ということで、世界的に見ても珍しいことのようですね。

 ともかく同じ日本人として嬉しい限りです、本当におめでとうございます。

 日本の科学技術力の低下が叫ばれていますが、ぜひ今後もこういった偉大な研究者が出てくる環境になるように企業や大学に国は適切な投資を行ってほしいものです。

 さて、今回はこの吉野彰さんのノーベル化学賞について特許の観点から説明したいと思います。

吉野彰さんノーベル化学賞関連特許(特許第1989293号)の概要

 旭化成の発表によれば、↑の6件が吉野彰さんのリチウムイオン電池に関する代表特許だそうです。

 この中でも代表特許(特許第1989293号)の【特許請求の範囲】は以下の通りです。

「1  正電極、負電極、セパレーター及び非水電解液を有する二次電池であつて、下記Ⅰを正電極の活物質として、下記Ⅱを負電極の活物質として用いることを特徴とする二次電池。
Ⅰ:非炭素質材料。
Ⅱ:BET法比表面積A(m2/g)が0.1<A<100の範囲で、かつX線回折における結晶厚みLc(Å)と真密度ρ(g/cm3)の値が条件1.80<ρ<2.18、15<Lcかつ120ρ-227<Lc<120ρ-189を満たす範囲にある炭素質材料。

 色々な数式で【特許請求の範囲】を記載しているので、分かりにくいですが、要するに

「「負電極に石油コークスのような炭素質材料を用いた二次電池」

ということがポイントになったようです。

 旭化成がこの特許出願の特許を取得するまでには結構、苦労したようで拒絶査定不服審判を請求したうえで特許の権利化に成功しています。

 以下においてはこの特許(特許第1989293号)がどれだけ優れたものであったか説明致します。

吉野彰さんノーベル化学賞関連特許(特許第1989293号)に対する異議申立

 上記した吉野彰さんの特許(特許第1989293号)は1992年1月21日に特許が成立しているのですが、1992年6月22日に何者からか異議申立の請求がされています。

 特許が成立すると特許庁は

「こんな内容の特許が成立しましたよ。問題ないですね?」

 と公に問うために特許掲載公報というものを発行し、その特許の内容を公表します。

 この特許掲載公報を見たたとえばライバル企業が

「いやいや、そんな特許が成立するのはおかしい。進歩性違反により特許にされるべきものではない。」

 と考えた場合に、請求することができるのがこの異議申立という手続です。

 つまり、その特許を潰す(消滅させる)ための手続ですね。

 吉野彰さんの特許(特許第1989293号)に対してどこの企業が異議申立をしたのかは分かりませんでしたが、どうもその審査経過を見ると、何件もの異議申立がされたようです。

 興味がある方は↓のリンクからご確認下さい。

 吉野彰さんの特許(特許第1989293号)審査経過

 ちなみに異議申立がされるということは、それだけその特許が成立したら困るライバル企業が多かったということですね。

 違う言い方をすると、それだけその特許を使いたいライバル企業が多かったとも言えます。

 異議申立は匿名でできるとはいえ、言ってみれば旭化成に喧嘩を売るわけですから、それなりの覚悟が必要です。

 なので、それだけ良い発明であり良い特許だったということでしょうね(ノーベル化学賞を受賞するくらいですから当たり前ですが)。

 それで本特許(特許第1989293号)は多数の異議申立を受けながら、旭化成が無事に特許を維持することに成功したというわけです。

 これは仮の話ですが、もし本特許(特許第1989293号)が異議申立で負けていたとしたら、ノーベル化学賞の受賞にも影響したような気がしますね。

 つまり、異議申立で負けるということは、その発明「負電極に石油コークスのような炭素質材料を用いた二次電池」は吉野さんが発明したものではないとまでは言いませんが、少なくとも特許にふさわしくないと判断されたようなものです。

 それなのにそのような発明への功績としてノーベル化学賞っていうのも多少、違和感を感じます。

 これは私の推測なので、全く根拠はありませんが、多少なりとも影響するのかなと思いますね。

吉野彰さんノーベル化学賞関連特許(特許第1989293号)の被引用回数

 被引用って何を言っているか、分かりますか?

 要は吉野彰さんの特許(特許第1989293号)が何かに引用されるということなのですが、先に結論を言うと、この特許(特許第1989293号)はなんと75回も引用されています。

 この被引用について、たとえば↓の特許は東芝のリチウムイオン電池に関する特許出願(特願2001-228442)を用いて説明します。

 東芝特許出願(特願2001-228442)

 ↑の東芝のリチウムイオン電池に関する特許出願(特願2001-228442)は、2011年5月24日に進歩性違反による拒絶理由通知を受け、これに対して2011年7月25日に手続補正書・意見書を提出して2012年7月3日に特許査定となっています。

 この進歩性違反の根拠として審査官が拒絶理由通知で提示した(つまり「引用した」)文献がこの吉野彰さんの特許(特許第1989293号→公開番号は特開昭62-090863)というわけです。

 このように他社の特許出願の拒絶理由通知で引用される特許ということは、その他社の特許出願(※上記の例では東芝の特願2012-260016)の発明に近い内容が吉野彰さんの特許(特許第1989293号)に記載されているということですね。

 つまり、吉野彰さんの特許(特許第1989293号)には東芝の特願2012-260016よりも先行して近いことが記載されていると言えます。

 ざくっといえば、この東芝の特願2012-260016に関する研究開発を東芝が後発でやっており、吉野彰さんの研究開発(特許)の方が先進的であったと言って良いかと思います。

 ですので、引用回数が多ければ多いほど、その特許に記載の発明は他社からしてみると先進的であり、優れた発明であるということができるわけです。

 まあノーベル化学賞に関連する代表特許なので当たり前かもしれませんけどね。

本記事のまとめ

 以上、吉野彰さんのノーベル化学賞関連特許(特許第1989293号)がどれだけ優れた発明についてのものであったか、特許の観点から説明しましたが、いかがでしたでしょうか。

 異議申立がされたかどうかは上記で示した特許庁のHPから確認できるので、気になる特許があれば確認するのが良いかと思います。

 あるいは「自社にとって困った特許(使いたい特許)が成立してしまった。でも進歩性がない特許だからおかしい。」なんていう場合には異議申立をすることを検討するのが良いかと思います。

 ただその場合には異議申立の専門家である弁理士に相談しましょう。

 最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

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