ユニクロセルフレジ訴訟対象特許の無効理由通知(ファーストリテイリング優勢?)
こんにちは、ベテラン企業内弁理士のタクパパです。
これまで↓のような記事で、アスタリスクという大阪の中小企業がファーストリテイリング(ユニクロ)のセルフレジに対し特許権侵害行為差止の仮処分命令申立の訴訟(裁判)を提起している事件について説明しました。
当事者(特にファーストリテイリング(ユニクロ)の知財部)としてはたまったものではないと思いますが、僕のような第三者からすると、大変、興味深い事件です。
またアスタリスクのような中小企業ですとか、あるいはベンチャー企業、スタートアップ企業にとって知財戦略の参考になる事件かと思います。
それでファーストリテイリング(ユニクロ)がアスタリスクの特許6469758号(PDFはこちら)に対し無効審判を請求していたのですが、進捗(無効理由通知)があったようなので、これについて説明しますね。
無効審判(ファーストリテイリング(ユニクロ)請求人)の無効理由通知とは?
↑は訴訟にいたるまでの経緯ですが、2019年10月29日に無効審判(2019-800041)の口頭審理が(なぜか大阪で)ありました。
この口頭審理は無効審判のクライマックスといいますか、これの後に審決(無効審決、又は特許維持審決)が出ることが多いかと思います。
ここで、無効審判の請求人(ファーストリテイリング(ユニクロ))は無効審判において↓で説明したような無効理由を主張していました。
この無効審判の請求人(ファーストリテイリング(ユニクロ))の主張する無効理由を無効審判の審判官が支持すれば、無効審決になったかと思います。
ただ無効審判の対象特許(特許6469758号)に請求人(ファーストリテイリング(ユニクロ))の主張する無効理由とはちょっと異なるんだけど、別の無効理由を有すると無効審判の審判官が判断する場合があります。
この請求人(ファーストリテイリング(ユニクロ))の主張する無効理由とは別の無効理由で突然、無効審決を出すのでは、被請求人(特許権者アスタリスク)にあまりにも不利益ですよね。
そこで、被請求人(特許権者アスタリスク)に弁明の機会(意見書を提出する機会)を与えるのが、この無効理由通知ということになります。
なお、上記したように無効理由通知の内容は請求人(ファーストリテイリング(ユニクロ))の主張する無効理由とは異なるものなので、これに対しては請求人(ファーストリテイリング(ユニクロ))に対しても意見書を提出する機会が与えられます。
無効審判(ファーストリテイリング(ユニクロ)請求人)の無効理由通知の概要
今回の無効理由通知で審判官が引用した公知例(引用文献)は↓の5つです。
それぞれにGoogle Patentのリンクを貼りましたので、ご確認いただければと思います。
ちなみにいずれの公知例(引用文献)も無効審判において審判請求人であるファーストリテイリング(ユニクロ)が提出した文献です。
なので、ファーストリテイリング(ユニクロ)が無効審判で主張した無効理由と審判官の考える無効理由とは、証拠(※公知例(引用文献))は同じなんだけど、その無効理由のロジックの組み立て方に違いがあるということですね。
1:米国特許第9245162号明細書(審判請求人が提出した甲第1号証)
2:特開2015-207119号公報(同甲第3号証)
3:特開2016-162177号公報(同甲第8号証)
4:特開2007-72681号公報(同甲第9号証)
5:特開2011-76266号公報(同甲第10号証)
今回の無効審判(2019-800041)ではアスタリスクの特許6469758号の請求項1-4の全てに対し、以下のような無効理由通知がされています。
請求項1:引用文献1から容易に考えられる(※進歩性違反)
請求項2:引用文献1に対し周知技術(引用文献2-5)の組み合わせにより容易に考えられる(※進歩性違反)
請求項3:引用文献1から容易に考えられる(※進歩性違反)
請求項4:引用文献1から容易に考えられる(※進歩性違反)
これをすべて説明するのは大変ですし、特に重要なのは請求項1、2なので、ここでは請求項1、2についての無効理由通知について説明しようと思います。
ファーストリテイリング(ユニクロ)無効審判対象特許6469758号(セルフレジ)の内容
↑の図面は特許6469758号の図1と図3の一部を横に並べて僕が特許の内容に関連する部品に名前を付したものです。
↓の各構成の(1A)~(2D)やそれぞれの符号は理解しやすいように僕が付したものです。
(1A)物品(P)に付されたRFタグ(12)から情報を読み取る据置式の読取装置(20)であって、
(1B)前記RFタグ(12)と交信するための電波を放射するアンテナ(60)と、
(1C)前記アンテナ(60)を収容し、前記物品(P)を囲み、該物品(P)よりも広い開口(30)が上向きに形成されたシールド部(44)と、を備え、
(1D)前記シールド部(44)が上向きに開口した状態で、前記RFタグ(12)から情報を読み取ることを特徴とする読取装置。
【請求項2】
(2A)前記アンテナ(60)よりも前記開口(30)側に配されて、前記物品(P)が載置される載置部(32)を備えた請求項1に記載の読取装置。
請求項1の前提として、まず物品(P)(※洋服などの商品)にRFタグ(12)というその商品情報を読み取るためのタグが付いていて、これを読み取るアンテナ(60)があります。
そして、物品(P)(※洋服などの商品)を収容するために物品(P)の周囲を覆うシールド部(44)があって、このシールド部(44)が上向きに開口した状態で、物品(P)(※洋服などの商品)に付いているRFタグ(12)から情報を読み取るというのが請求項1のポイントになります。
請求項2では、請求項1をさらに具体化しており、物品(P)(※洋服などの商品)が載置される載置部(32)(※水平板)の位置がアンテナ(60)よりも開口(30)側(※上側)にあるということがポイントです。
引用文献1(米国特許第9245162号明細書)の概要
この引用文献1(米国特許第9245162号明細書)が主引例なので、これについて説明します。
引用文献1(米国特許第9245162号明細書)の請求項1には、審判官によれば、以下の内容が開示されています。
前記少なくとも1つの対象物を受け入れる少なくとも1つの載置キャビティ(106)であって、
少なくとも1つの底壁および少なくとも1つの側壁(204-210)と、
少なくとも1つのRFID読取り/書込み手段(200)と、
対象物を前記載置キャビティ(106)内に載置するための、前記載置キャビティ(106)の上面に実質的に形成される、少なくとも1つの挿入アパーチャ(106)とを備える、載置キャビティ(106)と、
前記少なくとも1つの側壁(204-210)から上方に延在し、少なくとも1つの防壁(112)を通して前記少なくとも1つの挿入アパーチャ(106)にアクセスするためのアクセス開口部(116)を含み、前記載置キャビティ(106)と外部との間で電波を減衰させる材料で作られた、前記少なくとも1つの防壁(112)と、を備えるデバイス。」
この引用文献1(米国特許第9245162号明細書)のデバイスも買い物をした際にバッグに入れられた対象物のお会計をするためのもので、アスタリスクの特許6469758号(セルフレジ)と同じものです。
上記の載置キャビティ(106)というのは、要は会計の対象物を入れるための穴(※キャビティ)で、挿入アパーチャ(106)というのは、その載置キャビティ(106)の開口部のことだと考えてよいかと思います。
無効審判(ファーストリテイリング(ユニクロ)請求人)の請求項1に対する無効理由概要
上記したように請求項1に対する無効理由は、引用文献1(米国特許第9245162号明細書)から容易に考えられるという進歩性違反であり、新規性違反ではありません。
つまり、請求項1の構成のうち、引用文献1(米国特許第9245162号明細書)に開示されていない構成がある(※つまり双方には相違点がある)のですが、この相違点は引用文献1(米国特許第9245162号明細書)から簡単に容易に考えられるということですね。
審判官は一つ目の相違点として、アスタリスクの特許6469758号の請求項1では「据置式の」読取装置であるのに対して、引用文献1(米国特許第9245162号明細書)では「据置式の」とは書いていないと指摘しています。
「据置式」の意味は、その通り、すえつけておくタイプのことですが、引用文献1(米国特許第9245162号明細書)の会計デバイスだって、当然、「据置式」だと思うので、大した相違点ではないですね。
二つ目の相違点についてですが、アスタリスクの特許6469758号の請求項1では「(1C)前記アンテナ(60)を収容し、前記物品(P)を囲み、該物品(P)よりも広い開口(30)が上向きに形成されたシールド部(44)」となっていました。
つまりは「シールド部(44)がアンテナ(60)を収容している」ということですよね。
ところが、引用文献1(米国特許第9245162号明細書)ではどうなっているかというと、側壁(204-210)自体がアンテナを構成すると開示されています。
そして引用文献1(米国特許第9245162号明細書)において側壁(204-210)の外側は防壁(112)により覆われています。
したがって、引用文献1(米国特許第9245162号明細書)において「防壁(112)がアンテナを構成する側壁(204-210)を収容する」と開示されており、これだけ見ると上記したアスタリスクの特許6469758号の請求項1の「シールド部(44)がアンテナ(60)を収容している」と同じように見えるということです。
ここで、アスタリスクの特許6469758号においてシールド部(44)とは別部材のアンテナ(60)がシールド部(44)とは別部材の底面の真ん中辺りに搭載されています。
一方で引用文献1(米国特許第9245162号明細書)では側壁(204-210)とアンテナとが同じものなので、アスタリスクの特許6469758号とは全然違うように見えます。
ところが、アスタリスクの特許6469758号の請求項1ではそのような配置については言及しておらず、要約すると、単に「シールド部(44)がアンテナ(60)を収容している」としか言っていないので、これでは引用文献1(米国特許第9245162号明細書)との相違点が認められにくいですね。
そのため審判官はこの二つ目の相違点についても大した相違点ではなく、結局、引用文献1(米国特許第9245162号明細書)から請求項1にかかる発明を考えるのは容易であるため、進歩性違反だと認定しているわけです。
僕には少々、強引なロジックのように見えますが・・。
無効審判(ファーストリテイリング(ユニクロ)請求人)の請求項2に対する無効理由概要
請求項2は上記したように、↓の内容がポイントになります。
引用文献1(米国特許第9245162号明細書)において、物品が載置される載置部(※載置キャビティ(106)の底面)はアンテナを構成する側壁(204-210)よりも開口側(※上側)ではなく、反対側(※下側)に配置されています。
したがって、請求項2に係る発明は、引用文献1(米国特許第9245162号明細書)とは明確に異なるので、請求項2に係る発明は引用文献1(米国特許第9245162号明細書)に対し進歩性を有することになります。
ところが、上記の請求項2の書き方ですと、これだけ見るといくらでも他に公知例(引用文献2-5)があるということです。
↓は引用文献2(RFID読取装置)の図面ですが、たしかに
が開示されていますよね。
したがって、引用文献1(米国特許第9245162号明細書)に対し、この引用文献2(RFID読取装置)を組み合わせることで請求項2に係る発明は容易に考えられ、やはり進歩性違反だと判断されたわけです。
無効理由通知に対する今後の展開
おそらくですが、審判官は現状の特許の請求項だと無効理由を有するが、請求項の訂正により、無効理由を解消できると考えているため、今回のような無効理由通知を出したのではないかなと思います。
上記したようにアスタリスクの特許6469758号と引用文献1(米国特許第9245162号明細書)とでは、図面を見れば、結構、違いがありますよね。
本来、こういった引用文献を想定して、請求項を作成すべきだったのかなと思います。
たしかになかなか難しいところではあるんですけどね。
でもこれだけ重要な特許であれば、請求項を4つだけとかけち臭いことは言わず、どんな無効審判にも(もちろん訴訟にも)耐えられるような複数の請求項を僕だったら作成するかなと思いました。
ともかく今回の無効理由通知に対し、アスタリスクは意見書だけ提出して反論する(※「無効理由なんて全くない!審判官の認定は大間違い!」)という選択肢と、特許6469758号の請求項を訂正するという選択肢があります。
前者の選択肢は、僕が見たところあり得ないと思うので、おそらくは後者の選択肢になるのかなと思いますね。
本記事のまとめ(ユニクロセルフレジ訴訟対象特許の無効理由通知)
以上、長々とファーストリテイリング(ユニクロ)セルフレジの訴訟対象特許の無効審判において無効理由通知があったということで、無効理由通知の内容について説明しました。
上記した請求項の訂正というのは、無効審判では訂正請求という手続を請求することで行うことになるのですが、これってかなり特許権者に有利なんですよね。
無効理由を解消しつつ、ファーストリテイリング(ユニクロ)のセルフレジをカバーする訂正の内容を考えることができるわけですからね。
そんなに簡単ではないですが、今回の無効理由通知の内容であれば、できなくもないような気がしております。
今後の展開についても引き続きウォッチしていきたいと思います!
最後までお読みいただきありがとうございました!
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