こんにちは、ベテラン企業内弁理士のタクパパです。
2019年10月9日のダイヤモンドオンラインの記事に「ユニクロを特許侵害で訴えた下請け社長語る「ゼロ円でライセンスを要求された」」というものがありました。
特許6469758号(PDFはこちら)という特許で内容はセルフレジに関するものです。
最近はスーパーでもコンビニでもセルフレジってありますよね、あれです。
昨今は話題になるような特許訴訟が少ないのですが、この訴訟は大企業のファーストリテイリング(ユニクロ)が下請け企業のアスタリスクをいじめているかのような構図になっていて、下町ロケットさながらで面白いですね。
僕も経験がありますが、こういった係争に巻き込まれると知財部は尋常じゃなく忙しくなるのでファーストリテイリングの知財部担当者は大変だろうなとかわいそうになります。。。
今回はこの特許訴訟について、またそこからアスタリスクの知財戦略を読み解いていこうと思います。
なお、本特許訴訟の対象となった特許がアスタリスクによって権利化されるまでの記事を↓に書いてみましたので、良かったらご覧ください。
この記事のもくじ
特許6469758号(セルフレジ)の内容
下の図面は特許6469758号(PDFはこちら)の図1と図3の一部を横に並べて僕が特許の内容に関連する部品に名前を付したものです。
特許の内容ですが、僕なりに分かり易く説明すると、↓のようになります。
多少、僕の解釈で情報を付加してますので、特許の内容そのものとは多少、異なる点にはご注意下さい。
① アンテナ→洋服などの商品にはRFタグというその商品情報を読み取るためのタグが付いていて、これを読み取るアンテナです。
② 水平板→セルフレジに洋服などの商品を置きますよね、その洋服を置くための板のことです。
③ シールド部→コンビニのセルフレジにはないような気がしますが、下の左図のように洋服を収容するために洋服の周囲を覆う板のことです。 このシールド部の内部に↑のアンテナが配置されています。
④ シールド部の上側は開いていて、その状態のままでRFタグを読み取る。
ファーストリテイリング(ユニクロ)vsアスタリスク特許訴訟の経緯
↑に訴訟にいたるまでの経緯をまとめてみました。
つい先日の2019年10月29日に無効審判(2019-800041)の口頭審理があったようです。
通常は特許庁でやるものですが、なぜか大阪で口頭審理が行われたようですね。
この無効審判ですが、特許になるためには、出願日の時点で世の中に公開されている技術(論文とか特許とか)に対し新しさが必要です。
しかし、特許庁の審査だって100%ではないので、間違って特許になってしまうことがあります。
本来は特許になるはずではなかったということで、特許を無効にするために特許庁に対して行う手続が無効審判というものですね。
簡単に言うと特許の有効性を争うものですが、結局、技術的に突っ込んだ争いとなるため、書面で何回もやり取りするより、直接、口頭で議論した方が早いという趣旨で書面審理ではなく、口頭審理で審理することが多いようです。
僕も何度か口頭審理の傍聴に行ったことがありますが、基本的に技術の議論なので、弁理士が口頭審理を担当していることが多かったです。
本件の無効審判(2019-800041)も双方の代理人は特許事務所のようですね。
このケースの口頭審理の傍聴にはいっていないので結果は知りませんが、これは弁理士の腕の見せ所ですね!
アスタリスクの特許訴訟による知財戦略(マーケティング戦略)
このアスタリスクの特許訴訟による知財戦略をどう考えるべきでしょうか。
上記のダイヤモンドオンラインの記事によれば「レジ1台あたりのライセンス料は1日約500円だという。単純計算すると、国内800店舗×2台×365日で、年間約2.9億円となる。」ということですが、いくらなんでもそれは高すぎると個人的には思います。
それはともかくとして、一応、現状では特許権侵害行為差止の仮処分命令申立の訴訟を提起しているわけですが、はっきり言ってこの訴訟に勝とうが負けようが、アスタリスクの戦略は既に成功しているといっていいのかなと僕は思いますね。
世の中の企業は、いかにコストをかけずに会社や商品、サービスの知名度を上げる、あるいはブランド力をあげるか、必死にそのためのマーケティング戦略を考えていますよね。
失礼ながらアスタリスクという大阪の中小企業はおそらく今回の訴訟の前はそんなに知名度がなかったのではないかと思います(※もともと有名な会社だったらほんとすいません)。
ところが、アスタリスクの今回の大きな動きとしては以下の二つがあると思いますが、この二つの動きによって、その結果はどうでしょうか?
① 日本を代表する大企業ファーストリテーリングを相手に取った中小企業のアスタリスクによる今回の訴訟
② 訴訟にいたるまでの経緯をとても早いタイミングでメディア(ダイアモンドオンライン)を使って、こと細かに世に知らしめたこと
結果としてアスタリスクは実は以下のような利益が得られたといえるかなと僕は考えています。
(1)アスタリスクという企業の知名度アップ
(2)アスタリスクの商品、サービス(RFIDによるセルフレジ)の知名度アップ
(3)アスタリスクの技術(RFタグ読み取り技術)の技術ブランド力アップ
(4)中小企業であるアスタリスクを応援しようとする世論
この利益はすぐに数字に表れるものではないですが、むちゃくちゃすごくないですか?
なんといっても(1)の企業の知名度アップですが、これを含めて↑に示しただけの利益がこの短期間で得られる宣伝、広告のやり方はおそらくないのではないでしょうか。
数字に表れるアスタリスクの利益としては、↑の(2)や(4)のおかげで、ファーストリテーリングからは受注が取れなくても、他のセルフレジを使う企業からの受注が今後、見込めるのかなと思います。
下町ロケットの世界で皆さんが帝国重工の社長だったら、それは佃製作所に発注したくなりますよね。
もちろんその商品やサービスの技術は重要ですが、今回のケースではあのユニクロで採用された技術ということで↑の(3)のようにアスタリスクの技術(RFタグ読み取り技術)の技術ブランド力が向上していますので、アスタリスクのセルフレジの品質は良いものだと考えやすいですよね。
しかも上記のダイヤモンドオンラインの記事の書きっぷりもそうですが、(4)の中小企業であるアスタリスクを応援しようとする世論になったのも今後の受注にとって大きなプラスの影響を与えるかなと思います。
以上の通り、アスタリスクの特許訴訟により、これだけの利益が得られたわけですから、アスタリスクの知財戦略(マーケティング戦略)はもともと狙っていたかは不明ですが、大成功だと考えます。
本記事のまとめ
◆今回の事件でアスタリスクが取った大きな二つの動き
① 日本を代表する大企業ファーストリテーリングを相手に取った中小企業のアスタリスクによる今回の訴訟
② 訴訟にいたるまでの経緯をとても早いタイミングでメディア(ダイアモンドオンライン)を使って、こと細かに世に知らしめたこと
◆特許訴訟による知財戦略によりアスタリスクが得られた利益
(1)アスタリスクという企業の知名度アップ
(2)アスタリスクの商品、サービス(RFIDによるセルフレジ)の知名度アップ
(3)アスタリスクの技術(RFタグ読み取り技術)の技術ブランド力アップ
(4)中小企業であるアスタリスクを応援しようとする世論
◆僕が今回の事件から学んだこと
今回のアスタリスクの特許訴訟に基づく知財戦略(マーケティング戦略)ですが、大変、学ぶことが多かったです。
僕の知る限り、特許訴訟はおろか、特許を活用することに重きを置く弁理士はまだまだ少ないかと思います。
しかし、本来の弁理士の役割としては、クライアントの特許取得までをサポートするのではなく、その特許を活用してどのようにクライアントに利益をもたらすかまでを考えて、そのための知財戦略を提案しないといけないと考えています。
特許訴訟を今回のように活用することは僕もこれまで考えていなかったですが、今後はこういった選択肢も考えながら活動していこうと思いました。
最後までお読みいただきありがとうございました!
コメント
[…] […]
[…] […]