対ファーストリテイリング(ユニクロ)特許訴訟の対象特許の攻防が激しい(アスタリスク権利化)

知財戦略

 こんにちは、ベテラン企業内弁理士のタクパパです。

 以前に↓のような記事で、このアスタリスクという大阪の中小企業が対ファーストリテイリング(ユニクロ)に特許権侵害行為差止の仮処分命令申立の訴訟を提起することによる知財戦略を説明しました。

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 この訴訟で用いたのがアスタリスクの保有する特許6469758号というRFIDを用いたセルフレジに関する特許なのですが、これの審査経過を調べてみたところ、色々と面白いことが分かりました。

 まずアスタリスクはそのRFIDを用いたセルフレジの特許出願を使ってファーストリテイリング(ユニクロ)を攻めにいっているわけですね(※要は攻撃側)。

 このアスタリスクの攻撃に対して、ファーストリテイリング(ユニクロ)も色々と策を練って、なんとか自社を守ろうとしているわけです(※要は守備側)。

 今回はこの特許訴訟に関連して、ファーストリテイリング(ユニクロ)対アスタリスク(下請け企業)の攻防のうち、アスタリスクの攻撃(権利化)について説明しますね。

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ファーストリテイリング(ユニクロ)特許訴訟のアスタリスク特許の審査経過

 前回の記事で「ファーストリテイリング(ユニクロ)vsアスタリスク特許訴訟の経緯」について説明しました。

それで↑の表は、前回の記事で説明に使った訴訟経緯の表に、アスタリスク特許(特許6469758号)の審査経過に関するイベントを赤字で追記したものです。

 特許の審査経過というのは、特許庁に特許出願をした後でアスタリスクが出願審査請求という手続を行った後の審査の経過がどうなったかということを意味します。

 具体的に見ていきましょう。

 なお、特許の内容や審査経過については特許6469758号(PDFはこちら)からご確認頂くことが可能です。

スーパー早期審査(対ファーストリテイリング(ユニクロ)特許訴訟の審査経過

 まず2018年11月14日に「アスタリスクが特許出願(特願2017-93449)の出願審査請求」という手続を特許庁に対して行っています。

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 この出願審査請求により特許庁の審査官による審査が始まるのですが、面白いのは2018年11月に「ファーストリテイリングがアスタリスク以外のRFIDレジを採用することを決定」していることですね

 これを知ったアスタリスクは、

「なんとかしないとまずい」)

 と考えたのでしょうか。

 それでアスタリスクは、その直後の2018年11月14日に出願審査請求を行い、一刻も早く特許を取得しようと考えたわけですね。

 なお、通常の特許出願では、特許出願人(※アスタリスク)は上記した出願審査請求のみを行って審査官の審査結果(拒絶理由通知、または特許査定)が通知されるのを待つことになります。

 しかし、アスタリスクは出願審査請求だけでなく、2018年11月14日にスーパー早期審査請求という手続を特許庁に対して行っています。

 通常の出願審査請求のみだと、出願審査請求を行ってから、だいたい1年から2年くらいで審査官の審査結果(拒絶理由通知、または特許査定)が通知されますかね。

 でもこのスーパー早期審査請求を行うと、原則として、1月以内に審査官の審査結果(拒絶理由通知、または特許査定)が通知されることになっています。

 その結果として、アスタリスクは2018年12月18日に拒絶理由通知を受領したということですね。

 

拒絶理由通知に対するアスタリスクの超速攻権利化(※弁理士の先生もクリスマス返上?)

 2018年12月18日に拒絶理由通知を受領したということは、もう年末ですね。

 拒絶理由通知は受領してから特許出願人は、60日以内に特許庁に応答(※要は手続補正書や意見書を提出)しないといけません。

 しかし、この拒絶理由通知は進歩性違反によるものなので、結構、面倒くさいです。

 進歩性違反ということは、審査官から公知文献が提示されたうえで、

「あなたの発明には進歩性がありません!」

 と言われているということですね。

 なのでアスタリスク(※というか担当の弁理士)としては、その公知文献を読み込み、アスタリスク特許出願(特願2017-93449)と何か違う点がないか検討したうえで、上記した手続補正書や意見書を作成する必要があります。

 https://www.inhouse-patent-attorney.com/allowance-procedure/

 おまけに今回の場合は、当然、ファーストリテイリング(ユニクロ)が今後、使おうとしているセルフレジをカバーする特許にしないといけませんね。

 なので、担当の弁理士としては、「特許請求の範囲」をファーストリテイリング(ユニクロ)のセルフレジとは同じにしつつ、だけど審査官の提示する公知文献とは異なる内容にする手続補正書を作成する必要があ ったわけです。

 これはなかなか難しいというか、弁理士の腕がないと無理なんです。

 仮にこのとき担当の弁理士の腕がなくて、「特許請求の範囲」を公知文献とは異なる内容にしたものの、ファーストリテイリング(ユニクロ)のセルフレジをカバーしていない手続補正書を作成してしまったら、どうでしょうか。

 ファーストリテイリング(ユニクロ)からしてみれば

「いやいや、腕のない弁理士で本当に助かった!二度と来ないでくださいね。」

 といった感じでアスタリスクは、もはやファーストリテイリング(ユニクロ)に相手にされなくなってしまうというわけですね。

 それでアスタリスクの担当の弁理士さん、頑張りました。

 それだけ大変で責任重大な特許庁への応答(手続補正書及び意見書の提出)を拒絶理由通知を受領した2018年12月18日から10日も経たない年度末の2018年12月27日に行っていますね。

 このアスタリスクの真剣さが伝わったのか、分かりませんが、このアスタリスクの応答(手続補正書及び意見書の提出)に対して、特許庁は年明けすぐの2019年1月15日に特許査定を通知しています。

 この特許査定を受けたのが、後にファーストリテイリング(ユニクロ)への特許訴訟に発展するアスタリスク特許(特許6469758号)なので、2018年12月27日に行った弁理士さんの応答は正解であったといって良いと思います。

 弁理士さんとしては、非常に大変だったと思いますが、こんなに面白い仕事を担当できることもめったにないので、「弁理士、冥利に尽きる」って感じかもしれませんね。

分割出願とは?アスタリスクは特許出願の分割出願により波状攻撃

 アスタリスクは2019年1月15日に特願2017-93449の特許査定を受領し、なんとその翌日(2019年1月16日)に特許料を納付しています。

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 そしてアスタリスクは2019年1月16日に特許料を納付するのと同時に分割出願(特願2019-005597)を行っているのがポイントですね。

 この分割出願というのは、要するに元々の特許出願(特願2017-93449)の書類(明細書や特許請求の範囲、図面)に複数の発明が含まれていた場合に、その一部の発明を抜き出して、別の特許出願として残すことができる手続のことです。

 この分割出願のメリットとしては、分割出願の実際の特許出願日は2019年1月16日なのですが、審査官による審査においては、あたかも親出願(特願2017-93449)の特許出願日(2017年5月9日)にその分割出願が出願されたかのように取り扱われるということです。

 なんでアスタリスクがこの分割出願(特願2019-005597)を行ったのでしょうか

 まず、特許訴訟などの特許係争に発展すると、守備側(ファーストリテイリング(ユニクロ))としては特許を回避するのが基本です。

 要するにファーストリテイリング(ユニクロ)は実施しようとしているセルフレジをアスタリスク特許(特許6469758号)と違うものとなるように仕様を変更してしまえば、特許を回避することができ、特許訴訟で差止請求をされることがなくなるというわけです。

 これに対してアスタリスク(攻撃側)の手段として取り得るのが、分割出願になります。

 その特許出願(特願2017-93449)の書類(明細書や特許請求の範囲、図面)の中にファーストリテイリング(ユニクロ)の仕様変更後の発明が記載されていればという条件付きですが、仮にファーストリテイリング(ユニクロ)がセルフレジの仕様を変更しても、その分割出願で仕様変更後のセルフレジをカバーすることが可能となるわけです。

 なお、↑の「アスタリスク「セルフレジ」特許ファミリ」に示すように、最終的にはこの分割出願(特願2019-005597)も特許になり、さらにアスタリスクは、この分割出願(特願2019-005597)から別の分割出願も複数、しているようです。

 ちなみに元々の親出願(特願2017-93449)からの分割出願(特願2019-005597※子出願)からの分割出願なので、これらの特願2019-079932、特願2019-079933、特願2019-079934を孫出願と呼んだりします。

 まさにアスタリスクが特許出願の分割出願により波状攻撃をしかけているということですね。

 しかも孫出願の特願2019-079932、特願2019-079933は既に特許になっていますが、特願2019-079934は特許になっておらず、出願が継続しているようです。

 なので、この孫出願の特願2019-079934からアスタリスクがさらに分割出願(※ひ孫出願)を行う可能性もあるということです。

 ファーストリテイリング(ユニクロ)からしてみると、終わりがないので、アスタリスクというか、この担当弁理士さんは相当、嫌な相手だと思います。

本記事のまとめ

 以上、対ファーストリテイリング(ユニクロ)特許訴訟の対象特許の審査経過ということで、アスタリスクの権利化について説明しました。

 スーパー早期審査、超速攻権利化、さらに複数の分割出願を駆使した波状攻撃ということで、同じ弁理士の僕からすると、なかなかやり手の弁理士さんだと思いましたね。

 ファーストリテイリング(ユニクロ)対アスタリスクの攻防ですが、次回の記事ではファーストリテイリング(ユニクロ)だけではないのですが、守備側の話をしたいと思います。

 最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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