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ノーベル化学賞受賞吉野彰さんの属する旭化成を知財の観点から解説します
こんにちは。
企業内弁理士のタクパパです。
本日(2019年12月10日)はスウェーデンのストックホルムでノーベル賞の授賞式があるそうですね。
改めて、吉野彰さん、ノーベル化学賞の受賞、おめでとうございます!
このノーベル賞の記念講演に先立ち旭化成の小堀秀毅社長のコメントを載せた産経新聞の記事を読みました。
吉野さんノーベル賞 「功績の大きさ、日増しに強く感じた」 記念講演前に旭化成社長ら会見
この産経新聞の記事によれば、旭化成の小堀秀毅社長は「平成12年ごろに特許管理に関する仕事を担当した」と書いてあるので、まさか旭化成の知財部にいた経歴があるのでしょうか。
というわけで、ノーベル化学賞を受賞した吉野彰さんの属する旭化成ですが、この旭化成を知財の観点から解説してみたいと思います。
なお、↓の記事は以前にノーベル化学賞受賞吉野彰さん基本特許(リチウムイオン電池)ということで解説した記事になるので、良かったらご参考にしてください。
旭化成ってどんな企業なの?売上(純利益率)や代表製品は?
旭化成の売上・純利益率は?
旭化成の2011年からの売上と純利益率を↑に表示してみました。
売上、純利益率とともにほぼ右肩上がりで素晴らしい業績ですね。
これは営業利益率ではなくて純利益率ですからね。
営業利益率を出す企業が多いと思いますが、営業利益率だって8%を超えていれば、「まあ悪くはないんじゃないの?」という雰囲気だと思います。
決算書を見ないと細かいことは分かりませんが、純利益率で8%を超えるというのはかなりの優良企業と言って良いのかなと思いますね!
旭化成の代表製品は?
旭化成の売上の半分程度を占めるのが、マテリアル事業というもので、要するに材料の事業ですね。
↑は知的財産報告書2018からの抜粋ですが、 主要製品に、
「石油化学系(アクリロニトリルなど)、高機能ポリマー系(合成ゴムなど)、高機能マテリアル系 (中空糸ろ過膜「マイクローザ™」、消費財系など)」
とあります。
石油化学系(アクリロニトリルなど)というのは、たとえばセーターなどに用いられるアクリル繊維の元になるものですね。
高機能ポリマー系(合成ゴムなど)について説明は不要だと思いますが、高機能マテリアル系 (中空糸ろ過膜「マイクローザ™」は身近な製品にはたぶんないですね。。
要するに細かい孔が開いている素材で、ろ過のために使われるもののようです。
もちろん今回のノーベル化学賞の受賞の理由となったリチウムイオン電池の負極材料に用いられる石油コークスという炭素材料もこのマテリアル事業になります。
ともかく旭化成はこういった特殊な材料の開発、製造、販売をビジネスにしている企業ということですね。
このような特殊な素材は、当然、家庭用のものだけではなく、自動車に使われるリチウムイオン電池だったり、↑にも示したように建物の建材に用いられたり、医療機器に用いられたり、さまざまです。
そのため旭化成は、その事業領域を上記したマテリアル事業の他、建材などの材料の開発を行う住宅事業、さらに医療機器に用いられる材料の開発を行うヘルスケア事業と、フットプリントを拡げているわけですね。
旭化成の知財戦略(IPランドスケープ)
旭化成は知的財産報告書2018にも記載されていますが、知財部がIPランドスケープに積極的に取り組んでいるということで有名です。
IPランドスケープの定義は様々ですが、旭化成のIPランドスケープを要約すると、↓のようになるかと思います。
(2) (1)の結果に基づき、市場における旭化成のポジションや事業の強み、事業の発展性を見出す。
(3) (2)の情報を、事業強化、新事業の創出、M&A等の経営判断に活用する。このIPランドスケープは以前に↓の記事で説明した特許庁の知的財産戦略事例集に載っている企業の多くも取り組んでいます。
実は僕自身もこの考え方は有効だと考えていて、実務で色々と実施しているところです。
ただ旭化成は結構、前からこのIPランドスケープに取り組んでいるようで、そういう意味ではIPランドスケープを実施した先駆けの企業といえるかもしれません。
特に知的財産報告書2018において上記したように
とまで言わしめることはすごいことだと思います。
これはつまり、旭化成の小堀秀毅社長を含めた経営陣がIPランドスケープが事業にとって重要というだけでなく、事業戦略を判断するうえでIPランドスケープを活用することが重要であるということを認識しているといえるからです。
それだけ旭化成の知財部が優秀であり、旭化成の経営陣に食い込んでいるということだと思いますね。
旭化成の米国製薬企業ベロキシス社(Veloxis)買収と知財(特許)
旭化成は2019年11月25日に米国の製薬企業Veloxis Pharmaceuticals Inc.(ベロキシス社)を約1432億円で買収すると発表しましたね。
ベロキシス社は「Envarsus XR」という腎臓を移植されたあとに起きる臓器拒絶反応を防ぐための薬品を開発・製造しており、米国で高いシェアを持っています。
今回の買収は、ベロキシス社の米国医薬品市場のプラットフォームを獲得するのが狙いということで、米国市場での事業展開を強化する狙いがあるということです。
なんといっても米国の医薬品市場は約53兆円の世界最大のマーケットであるためですね(しかも成長率も年率7%の伸びを見込む成長市場)。
さらに米国はベンチャーやアカデミアから数多くの革新的イノベーションが産まれているという点も重要です。
このように医薬品事業の成長力・競争力強化することで、「健康長寿社会に貢献できるグローバル・ヘルスケア・カンパニーを目指す」と小堀秀毅社長は意気込んでいるそうです。
ここで、M&A先をどこの企業にするかの判断は、知的財産報告書2018にも記載されているようにIPランドスケープの得意とするところです。
だれもそんなことは言っていないですが、おそらく今回の買収先として、Veloxis Pharmaceuticals Inc.(ベロキシス社)を選ぶために、IPランドスケープも活用したのではないかなと僕は思います。
Veloxis Pharmaceuticals Inc.(ベロキシス社)と同じような価格で買収できる製薬会社は世の中にそこそこあるかと思いますが、このときに重要なのがお互いの技術を融合することによる相乗効果がどれだけ得られるかですよね。
たとえば、旭化成が苦手とするところをVeloxis Pharmaceuticals Inc.(ベロキシス社)の有する技術で補完することができるのか、なども検討ポイントの一つになると思います。
そこでVeloxis Pharmaceuticals Inc.(ベロキシス社)の特許の分析を行い、さらに旭化成の保有する特許の情報と対比することで上記のような検討を行います。
これにより、Veloxis Pharmaceuticals Inc.(ベロキシス社)がどれだけ買収先としてふさわしいかの指標を出して経営陣に報告するとか知財部がしたのかなと勝手に想像しました。
もちろん、Veloxis Pharmaceuticals Inc.(ベロキシス社)だけでなく、買収候補先の他社に対しても上記と同じ検討を行い、指標を出したうえで、それぞれの指標を理由とともに経営陣に報告するのが大事ですね。
このIPランドスケープに基づくM&Aの買収候補先の指標は判断材料の一つにすぎませんが、こういった情報は買収後の成長戦略を描くために大変、有効なので、重宝されるかなと思います。
旭化成の小堀秀毅社長の経歴と知財(特許)
旭化成のHPに↓のように小堀秀毅社長の経歴が載っておりました。
https://www.asahi-kasei.co.jp/asahi/jp/news/2015/pdf/ze160209_2.pdf
上記した「平成12年ごろに特許管理に関する仕事を担当した」という産経新聞の記事の肝心な平成12年にどちらの部署にいたのかが分からないのですが・・。
まあただ平成16年に企画管理部長になられたということなので、その少し前の平成12年もおそらく企画管理部という部署に所属していたのかなと推測はできます。
正確ではないかもしれませんが、この企画管理部というところが今でいう知財部の役割を担っていたのかもしれません。
だとしたら、すごいことで、僕は知財部出身で大企業の社長になった人を一人も知りません。
知財部って間接部門ですし、あくまでもサポート部隊であって、ビジネスの主役になる部署ではないというのは一般的な扱いだからです。
まあただ単にIPランドスケープとまでは言わずとも、小堀秀毅社長が企画管理部に所属されていた際に特許の情報も使って企画の仕事を検討したということなのかもしれませんけどね。
本記事のまとめ(旭化成知財部は就職・転職するのにおススメ!?)
以上、ノーベル化学賞を受賞した吉野彰さんの属する旭化成について、知財戦略(IPランドスケープ)、ベロキシス社(Veloxis)買収と知財、さらに小堀秀毅社長と知財という知財の観点から解説してみました。
結論として言えるのは、旭化成は優良企業であり、しかも知財部も優秀であると思われ、旭化成の知財部は知財屋さんとしても成長できる部署のように見えるため、知財部に就職・転職する方にとってはおススメだということです 😆
最後までお読みいただきありがとうございました!
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